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名古屋地方裁判所 昭和42年(借チ)14号 決定 1968年6月21日

申立人

水谷智一

右代理人

鈴木匡

大場民男

清水幸雄

相手方

今井宏

ほか一名

右両名代理人

岩田孝

主文

申立人が相手方らに対し五九一万円を支払うことを条件として申立人が別紙目録記載の賃借権を名古屋市昭和区萩原町四の三三深谷研作に譲渡することを許可する。

申立人が前項による賃借権を譲渡したときからその賃借権の賃料を一ケ月二万円とする。

理由

一申立人は「申立人が別紙目録記載の土地賃借権を名古屋市昭和区萩原町四の三三深谷研作に譲渡することを許可する。」との裁判を求めた。

二本件資料によれば次のことが認められる。即ち

(1)  申立人は従前本件土地上に建つていた建物を賃借していたが、戦災で家屋が焼失してしまつた。その後昭和二一年七月一〇日申立人は相手方先代今井清吉から期間は一〇年、賃料は3.3m2当り一ケ月三円五〇銭の割合で賃借し、その地上に本件家屋中店舗部分を建築し時計商を営んできた。しかし、右期間の点は借地法に違反するので二〇年とすべきであるから昭和二一年七月一〇日から起算して二〇年、即ち昭和四一年七月一〇日の経過により一応満了することとなるが、その後も本件土地の使用が異議なく継続されていたので、期間は法定更新され、結局昭和六一年七月一〇日まで存続することとなつたものとみるべきである。そうすると、残存期間はなお一八年位あることとなる。

(2)  今井清吉は昭和三六年一一月六日死亡したので相手方らは同日相続し、賃貸人たる地位を承継したものである。

(3)  本件賃貸借の賃料はその後漸次値上されてきたが、本件土地が名古屋市電白川通大津停留所の近くで、附近には松坂屋、オリエンタル中村等の百貨店のある名古屋市の一等地であることから考えればなお低額である。現在の賃料は一カ月一万九六〇円である。

(4)  申立人は後に本件家屋中居宅部分を増築したがその時賃貸人に若干金を支払つたが、それ以外には権利金等を支払つていない。

(5)  申立人は昭和四二年九月頃病気になつたので、時計商の廃業を決意し、その友人である深谷研作に本件家屋および借地権を一六五〇万円で譲渡する旨の契約が成立し、その承諾を求めたが拒絶せられた。深谷研作はその息子に本件家屋で時計商を営ませる意向である。

(6)  深谷研作は永年郵便局に勤務していたので年金収入もあり、又アパート経営による収入もあるので月一五万円位の収入がある。人物も郵政功労者として表彰されたこともある程で信頼できる人であるから同人に賃借権を譲渡しても相手方に迷惑を及ぼすとも考えられない。

以上のことが認められる。そうすると、本件賃借権を譲渡することによつて相手方に不利となるおそれがないものというべきであるから本件申立を認容すべきである。

三附随処分

前記認定の諸事実、ことに借地権の譲渡価格、残存期間、賃料等と鑑定委員会の意見書、其の他本件に現れた一切の事情を考慮して次のとおりの附随処分を命ずるのが相当であると考える。

(1)  金銭給付額、名義書換承諾料として更地価格二九五五万一五〇〇円の二〇%五九一万円(万位以下切捨)を申立人に支払わせる。

(2)  賃料、本件賃料は低額であるから賃借権譲渡後の賃料は一ケ月二万円とする。

(3)  (1)の金銭給付を条件として本件賃借権譲渡を許可することとする。

以上の理由により主文のとおり決定する。(奥村義雄)

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